長沼豊教育長にお話を伺いました
令和6年7月1日付けにて新たに板橋区教育委員会教育長に就任された長沼 豊(ながぬま ゆたか)氏と青少年委員会 木下会長が、教育に関することを含めた様々な項目について、質問形式にて対談をいたしましたのでその内容についてご案内いたします。
木下会長 本日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。
今日はご質問というか、青少年委員の皆さんに、教育長のお人柄や教育への取り組み、考え方などいろいろと伝えたいと思い、私よりいろいろとお聞きさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
最初に・・・
長沼教育長の経歴を拝見させていただきましたところでお伺いいたします。
これまで私立学校での教員、教授をご経験されていますが、それらの経験の中で特に印象に残っていること、思い出に残っていることや上手く出来たこと、逆にうまくいかなかったことや今ならこうしてみたいということがありましたらお聞かせ下さい。
長沼教育長 いろんなことがありましたので、何をお話すればいいか・・・それでは・・・。
私は高校時代からボランティア活動を始めました。
最初に始めたボランティアは、高校2年生の時なのですけれども、当時、母子寮という今でいう母子生活支援施設に行って、子どもたちの遊び相手をするボランティアでした。
活動の多くは土曜日の午後で、お母さんたちは買い物に行ったり、 当時はまだ週休1日制ですから働いていたりする方もいました。
その間、母子寮の室内や、あるいは庭などで遊び相手をするボランティアです。楽しかったですよ。
ある意味、ジュニアリーダーの皆さんのようなことをしていました。
そのボランティア活動が、私が教育という世界に入っていくきっかけになったと思っています。
木下会長 なるほど。
長沼教育長 小学校、多分3年生か4年生位の女の子で「ユカちゃん」という女の子がいたのですが、その女の子の一言が、心に突き刺さるような言葉だったので今でも覚えています。
どういう言葉かというと・・・
いつもユカちゃんは私と仲が良く、そう、いつもにこやかな笑顔が素敵な女の子だったのですが、なぜかその日はちょっと暗い表情だったのです。
「どうしたの」って聞いても答えてくれないし、目も合わせてくれない。何か彼女の気を悪くなるようなことをしてしまったのかと思って・・・。あまり聞いてもいけないなと思いましたが、いつもと様子があまりにも違うので思い切って聞いたところ、ユカちゃんが「長沼さんの横顔が私の死んだお父さんに似ているから・・・」と話すのです。
つまり、お父さんのことを思い出したのでしょう。それで悲しんでいるようでした。
その瞬間、私は「楽しませよう」とって思っていた気持ち、あるいは「ボランティアだから良い事をしている」という気持ちでいたのが、ハッとさせられました。
そうか、悲しみに寄り添うというか、楽しいだけじゃない、ボランティア活動の中にはいろいろな状況があるということに気が付きました。
何かこう、楽しく安穏とした中で暮らしていた当時の自分でしたが、ボランティアとはどういう意味があるのだろうかと真剣に考えるようになりました。
楽しい遊び相手というだけではない、ユカちゃんのような子への対応、あるいは社会福祉の仕組みなどに興味が向くようになり、それでいろいろなボランティア活動へ、その後のめり込んで行きました。
木下会長 長沼教育長は少年期より本当にお優しい心をお持ちだったのですね。
いくら私たちが青少年活動を経験しても、なかなか子どもの表情からその先まで読み取ることは難しいというか、見つけにくいというか、今日は暗いなと思っても、そこまで心がけることはできておりません。そういうところを気に掛ける大切さ、我々も勉強になります。
長沼教育長 いえいえ、ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるとありがたいです。
質問の答えに合っていたかわかりませんが・・・。でも、そんな経緯から、教育に関する勉強をしよう、この道に進もうというきっかけになったと思っていますので、お話しさせていただきました。
木下会長 ありがとうございます。それでは次の質問に入らせていただきます。
これまで様々な教育活動や教育研究にお関わりになったと思います。そして今年7月に板橋区教育委員会の教育長にご就任されました。教育長は意識して取り組みたい項目を幾つか挙げていらっしゃいますが、その中よりお伺いいたします。子どもたちへの教育に対して心がけていること、心がけたいことについて教えていただければと思います。
長沼教育長 私が一番大事にしていることは、「教育とは何のためにあるのか」ということです。7月1日に着任し、関係の皆さんに着任挨拶をした際にも「教育とは何のためにありますか」と話をしました。
これには答えがいろいろあっていいと思います。
私は、教育とは人が幸せに生きるためにあると考えています。そのために、様々な教育があり、学ぶ喜びや、成長を実感できること、それから学んだことを今度は誰かのため・社会のために活かすことも大事である、そこで喜びも感じるだろうと思っています。
その中で、「ハッピーになる」「幸せになる」ということが教育と考えています。
子どもたちに「幸せを感じてもらいたい」「学校は楽しい」「笑顔で先生たちとあるいは友達同士で過ごしてもらいたい」「勉強は辛いこともあるかもしれないし大変なこともあるかもしれない、でも、楽しい」と過ごしてもらいたいと思っています。
学ぶことや学校に通うことが楽しいということを子どもたちに感じてもらいたい、だから、私たちはしっかりと進めたいと思っています。できれば不登校のお子さんも、学校に来ることだけが目的ではありませんが、ハッピーと思えるように学校や教育の場にて過ごしてもらいたいと思っています。
不登校の対応にも、力を入れて進めたいと思っています。この不登校という言葉ですがあまり良い言葉ではないと私自身思っています。登校することが良いことで、「不」がついているので良くないというというイメージがどうしてもあると思います。この言葉自体をちょっと変えるというかなるべく使わない、学びの多様化という様々なニーズへ対応の一つとして検討を進めたいと思っています。
学校以外の選択肢というのもがこれからの社会の中では必要かもしれません。フリースクールに通うお子さんがいてもいいという風潮など、みんながハッピーになることを考えながら進めたいと思っています。
木下会長 今、お伺いした子どもたちのために何か進めていきたい、推進していきたいという点に関して、何か想いというか、子どもたちがハッピーになる方策といいましょうか、お考えをお聞かせください。
長沼教育長 方策ですが、ニーズの多様化への対応としてはいろいろな選択肢を増やすことかと思います。どうしても日本の教育は、「同じことを、同じように、同じタイミングで行う」が一般的です。特に学校での教育がそうなっています。けれども、もう、そうではなく様々な選択肢があっていいという風潮にしたいと思っています。授業も変えていきたいと考えています。
木下会長 自由進度学習みたいなことでしょうか。
長沼教育長 おっしゃる通りです。ご存知ですね。ありがとうございます。その通りです。
自由進度学習みたいなものを推奨し、どんどん先生方に取り入れてくださいということを、校長会などで話しています。
そうすると、児童生徒の興味ある事柄について学ぶ機会を作れます。そこでまた褒めてあげて自信を持ってもらうということ、これは大切なことです。自己肯定感というのですが、そこを伸ばす教育、そこを大事にする教育を進めたいと思っています。
板橋区でもその様な自由進度学習とか自己調整学習とかと呼ばれる方法を始めている先生方が少しずつですが現れています。
これからは、その様な子どもたちが生き生きと学べる学校にしていきたいと思っています。
木下会長 逆に教育関係の方々に対して、教育長のそういう思いを行動に移して欲しいとか、心がけて欲しいとか呼びかけていることとか、何かございますか。
長沼教育長 やはり板橋の良いところは、地域愛、郷土愛かと思います。
地域のネットワークを作り、というか既にできているのでこれをしっかり大事にして、この大人たちが作っているネットワークを子どもたちにも大事にしてもらうことが大切と思っています。板橋が好きという人たちがあふれるようなまちになれば良いと思っています。
学校教育、それから社会教育、この社会教育には青少年委員さんも関わっていただいておりますが、その分野でも、人と人とが繋がるということ、この面白さとか楽しさ、当然、人と人ですから、違う関係の人もいるので大変さもありますが、やはり人間同士が関わり合い、幸せな教育で幸せな板橋区にしていくことにつながると思っておりますので、学校教育関係の方はもちろん、社会教育関係の方に協力頂けるよう発信していきたいと考えています。
木下会長 そうですね、我々青少年委員もジュニアリーダー活動を通じていろいろな地域や地元での祭りのお手伝いやキャンプのお手伝い、それら様々な活動のお手伝いもしております。
そうすると、地域の方もすごく熱心に教えてくださいます。あと、いろいろと協力してくださいます。
それらをジュニアリーダーの子どもたちも見て成長してくれます。
その様なところで協力できればと考えております。
それでは今度は、教育長のお人柄などを知りたいといいますか、不躾な質問になってしまうのかもしれませんがお聞かせいただければと思います。
長沼教育長 どこからでもどうぞ。
木下会長 それではまず、小中高校生当時の得意だった教科・科目を教えていただけますでしょうか。
長沼教育長 得意だったのは算数、数学です。それで中学校の数学の教員になりました。だから、やはりそこは一応、線としてつながっています。
木下会長 数学の先生ということは「1たす1は2」が正解で「○」ということでしょうか。それとも違う答えもあるということでしょうか。
長沼教育長 算数では「1たす1は2」ですけれども、社会に出たら、「1たす1は2」だけではないかもしれません。
木下会長 そうですね。ありがとうございます。
同じく小中学生、高校生時代のことなのですが、学校給食で好きだった献立、思い出のある献立があれば教えてください。
長沼教育長 私は中学から私立校へ行ったので、中学からはお弁当で給食は小学校だけでした。小学校は板橋ではありませんでしたが、当時はまだご飯給食ではなくパン食でした。あと牛乳といろいろなおかずがありました。
その給食の献立で一番覚えているのは学期の最後に出たフルーツポンチです。みんなも喜んでいました。
一学期、二学期、三学期の最終に必ず出るフルーツポンチ、これが美味しかったです。
やはり最終日にだけ出るので、何か特別感があったのだと思います。
木下会長 ありがとうございます。この質問していいのかな。
長沼教育長 遠慮なくしてください。大丈夫ですよ。何を聞いても大丈夫ですよ。
木下会長 これはちょっと・・・、もう少し後にして・・・。
それでは、これまでの人生で一番嬉しかったことを教えていただけますでしょうか。
長沼教育長 嬉しかったことは、結婚して、子ども3人いますが、家族を持って、やっぱりそれが一番の嬉しかったことでしょうか。やはり家族って一番ありがたいです。
木下会長 私もそう思います。家族があって、今の自分がいると思っています。私も子どもが2人おりますが、仕事をしていると外にいる時間が多く、結局、妻には、子どものこと学校のこと家庭のことをお願いしてしまいます。
長沼教育長 家族の支え合いは大切です。私もそう思います。
木下会長 ありがとうございます。それでは次の質問に。
挫折をするということは本来、辛いことです。でも、挫折をしてよかったということはございましたでしょうか?もしおありでしたらお聞かせください。
長沼教育長 そうですね、私、自叙伝を出しており、実はそこにも書いた内容ですが・・・。
挫折は何回かしています。先ほど話したように私は中学受験をして私立中学に通っていたのですが、第1志望は落ちてしまいました。加えて、大学も行きたかったところには行けなかったという挫折をしています。
でも、それをバネに「自分はこの世界で頑張ろう」と切り替えて進んできました。その世界で頑張り、それを認めてくれる先生がいてくれたり、いい友達がいてくれたりと、周りにも助けてもらえました。私はそういう経験ができたことは悪いことではないと思っています。
辛いけど、辛いけれども、それをバネにしてその世界でやると思えたことは、結局、プラスへとつながっていきました。今、考えればですが、よかった点であったと思っています。
木下会長 ありがとうございます。
それでは教育長の座右の銘についてお伺いしたいと思います。教育長の座右の銘は「夢を大切に」とお伺いいたしました。教育長の夢を教えてください。
長沼教育長 夢は、変わっていくものと思っています。
私、学生の時はやはり教師になりたかったのですが、それが夢でした。そしてその夢は叶いました。教員になったわけですから。そうすると、今度は違う夢がまた出てきます。自分で何かを研究できないかという夢です。
今度は教師ではない教育の仕事に就くという夢、大学の教員になるという夢を描いて、次々と自分の夢が変わっていくという経験をしてきました。
今の夢ですが、今は何かというと、中川前教育長が進められた「教育の板橋」の構想を更に充実させ、板橋の教育を日本一に、世界一にしたいと本気でそう思っています。
どうしてそんな夢をというと、私は大学教員の時には教員を目指す大学生を教えていました。その際、ずっと彼らに「日本の教育は世界一です」と言っていました。いろいろあるかもしれませんが日本の教育は世界トップレベルの教育をしていると思っています。ですので「皆さんが目指す教員という仕事は世界でナンバーワンなのです」ということを大学生に言ってきました。
と、いうことは、日本一の教育をやれば、イコール世界一になれるということです。
ただ、日本一になること、これは大変です。他の自治体さんも頑張っていますのでそう簡単にはいきません。でも、やはりそれくらいの気概を持ってやっていきたいと思っています。
中川前教育長の後を引き継いで、壮大な夢かもしれませんが、「板橋の教育」を世界一にするという夢を持っています。そのために皆さんにはぜひ協力いただきたいと思っています。
木下会長 ありがとうございます。私たち青少年委員も微力ではございますがお手伝いできればと思っております。
それでは次の質問です。板橋区のこんなところが好きというところがあれば教えてください。
長沼教育長
これは先ほど言った通り、やはり人です。地域愛、地元愛、郷土愛、そんな美しい心・気持ちを持った方がたくさんいて支えている地域や社会は板橋の一番良いところ、好きなところです。
木下会長 それでは板橋区の中でおすすめしたいスポットや行事とかありましたら教えてください。
長沼教育長 私はまだ着任間もなくあまり存じ上げておりませんので、むしろ教えてください。
木下会長 10月に板橋区民まつりが開催されます。
長沼教育長 そうですね。今月ですね。私も参加します。
木下会長 活気があって盛大で良い祭りです。
長沼教育長 そういう意味では板橋区のおすすめスポット・行事はお祭りなのでしょう。
伝統的なお祭りや地域のお祭り、もちろん区民まつりや花火大会もあり、どれも素晴らしいと思います。
板橋はまさに、地域愛にあふれた人たちが年代を超え、へだてなく活動できていることが素敵だと思います。
木下会長 ありがとうございます、もう時間も残り少ないので、あと少しだけお伺いいたします。もし生まれ変わったら、どんな職業に就きたいでしょうか。
長沼教育長 私は教師になりたくて教師になり、その後、教育学科の教授にもなり、そして今、教育長をやっておりますから、やはり教育の世界には何かしら就きたいという気持ちが7割ぐらいです。
そして3割は全く違う仕事でもいいかなと思っています。例えば・・・、ニュースキャスターとか、そういう全く違う仕事というのも面白いかなと思っています。
木下会長 ニュースキャスターですか。
長沼教育長 はい。なんか面白いでしょう。でも残りの3割ぐらいもやはり教育の仕事に就きたいと考えるかもしれません。
木下会長 ありがとうございます。それではもうお時間も少ないので・・・
長沼教育長 はい、わかりました。で、事前にいただいた質問のうち、この初恋の話はよろしいのでしょうか?
木下会長 お聞きしてよろしいですか。
長沼教育長 大丈夫です。小学校5年生の時です。転校してきた女の子がいまして、可愛い女の子でした。小学生の頃は相手がちょっと良いなと思っても、素直に表現できずに何かちょっといたずらしたりするじゃないですか。当時の私も、その子にちょっかいを出して、相手も追いかけて来たりして、「きゃっきゃっ」とやっているのが楽しかったと覚えています。
でも、そんなことをやっていたら、先生に怒られてしまいました。先生に呼び出されて「何やってんだ!」と、いろいろお説教された最後に「お前、あの子が好きなんだろう」と言われて。私も「えー」ってなりますが、素直に言えずに「いいえ」って答えてしまいました。
でも、やっぱりその子が好きだから、気を引くためにまたちょっかいを出して、そうすると先生から「何やってんだ!」と再び説教され、また最後に「お前、あの子が好きなんだろう」と言われました。その時は素直に「はい」って答えたのですが、女の子のこと好きなんて言ったのは初めてでしたし、しかも本人ではなく先生への告白となりました。でも、「そうか、好きっていう気持ちはこういうことなんだ」みたいなドキドキする気持ち、それが初恋だという思い出です。
木下会長 貴重なお話、ありがとうございます。
それではそろそろまとめの質問となるのですが、私たち板橋区青少年委員への要望などございましたら教えてください。
長沼教育長 教育の中で言うと、学校教育と社会教育があります。青少年委員は、社会教育の一翼を担ってくださる皆様なので、これからも社会教育の視点を持ち続け、子どもたちやジュニアリーダーの成長発達をしっかりとうながしていただきたいと思っています。
例えば、どんな経験をすればより彼らが成長できるのか、地域のいろいろな人と関わり合いの中で成長するためにはどのような関係作り・活動が良いのかなど、「教育」という視点をお持ちいただいて、楽しいイベントを企画いただければと思っています。
木下会長 それでは本当に最後の質問です。ジュニアリーダーや同年代の子どもたちにメッセージをお願いいたします。
長沼教育長 ジュニアリーダー活動に参加している子どもたちは、本当にありがたいです。ぜひたくさん楽しんで欲しいと思っています。地域の大人たちとの関わりやジュニアリーダー同士の交流を楽しんで活動して頂きたいと思っています。先ほどより、幸せのために教育を、とお話させて頂いておりますが、ジュニアリーダーの皆さんには笑顔で楽しみつつ活動をしていただきたいと思います。
そしてこれからジュニアリーダーになりたいという子どもたちには、ぜひ、まずは、入ってやってみて欲しいと思います。
木下会長 どうもありがとうございました。本当に貴重なお時間をいただきまして誠にありがとうございます。
長沼教育長 こちらこそ、お役に立つのかなと思って答えましたが・・・。ありがとうございます。
(令和6年10月9日(水)、板橋区役所教育長室において、教育委員会 長沼教育長と青少年委員会 木下会長との対談内容を要約し掲載いたしました。)